問題5 (tomhさん)


問題編
問:定木を使わずコンパスのみで、「点Cから直線ABに下ろした垂線の足を作図する」ことはできるでしょうか?
  できるならばその作図を、できないならばその理由を示して下さい。

解答編

なか さん がきれいな図を送付してくれました。コンパスのみで中点を求める方法に帰着されます。
他の方もこの方法です。私は、最初Dを求めず、ACの中点と、BCの中点を求め、AC,BCを直径とする円の交点を求める
という回りくどい方法でやりました。お恥ずかしい(~_~;) あっ あとで気が付きましたけどねっ(言い訳)

なか さん の解答(noetherさん tekiさん ふじさきたつみ さん も同じ)

[図左]ABに関しCと対称な点Dをとる。以下CDの中点を探せばよい。
[図中]ECDFが一直線上等間隔になるように、点E・点Fをとる。
    これは、六角形の頂点を作図する要領で簡単。
[図右]辺の長さが1:2:2の2等辺三角形EDGをつくる。
    辺の長さが1:2:2の2等辺三角形FCHをつくる。
    するとGHはCDの1/2になる。(簡単なので証明略)
    C、Dそれぞれを中心に半径GHの円を描けばその接点Mが求める点。




tomhさんの解説
一般に定木とコンパスでの作図とは、
 (1) 2つの円の交点を求めること。
 (2) 1つの円と1つの直線の交点を求めること。
 (3) 2つの直線の交点を求めること。
の3要素の組み合わせからなっています。コンパスのみの作図では、(1)は明らかに可能です。
問題は(2)と(3)が可能かどうかにかかっています。但し、コンパスで直線は引けませんから、直
線は2点を与えたり求めたりすることで定めることにします。

この問題は、数学では「Mohr(モーア)-Mascheroni(マスケロニ)の作図」として知られています。
(単に「マスケロニの作図」ということもある。)
(逆に定木のみで作図しようという問題も考えられており、(その一つが)
「Poncelet(ポンスレ)-Steiner(シュタイナー)の作図」というそうです。
(こちらも単に「シュタイナーの作図」ということもある。)
しかし、本当に定木だけでは作図はできないようで、その限界もいろいろと
研究されているようです。)

簡潔な解説が、

[1] 数学セミナー編集部・編, "数学100の問題 数学史を彩る発見と挑戦の
  ドラマ" (日本評論社 1998)(旧版は1984年)

にあります。以下の説明は、この[1]を参考にします。

まずは、(2)と(3)の作図法を示していきましょう。

(2)について:4点A、B、C、Dが平面上にあり、直線ABと、CDを半径とし
Cを中心とする円との交点を求めてみましょう。これは、点Cが直線AB上に
あるかどうかで少し事情が異なります。

(a) 点Cが直線AB上にないとき:点Aを中心とした半径ACの円と、点Bを中心と
して半径BCの円を描きます。そして、(点Cでない方の)交点をEとします。
このとき、直線ABは線分CEの垂直二等分線になっています。
次に点Cを中心とした半径CDの円と、点Eを中心とした半径CDの円の2つの
交点をXとYとします。すると、直線XYも線分CDの垂直二等分線になって、
直線ABと一致するので、このXとYが求めたかった点です。■

(b) 点Cが直線AB上にあるとき: 点Bを中心とした半径BDの円と、点Cを中心と
して半径CDの円を描きます。そして、(点Dでない方の)交点をEとします。
また、点Cを中心とした半径DEの円と、点Dを中心とした半径CDの円の
(直線CDに関して点Eと反対側の)交点をFとし、点Cを中心とした半径DEの
円と、点Eを中心とした半径CEの円の(直線CEに関して点Dと反対側の)
交点をGとします。
次に点Fを中心とする半径EFの円と、点Gを中心とする半径DGの円の(直線FGに
関して点Aと反対側の)交点をHとします。そして、点Cを中心とした
半径CDの円と、点Fを中心とした半径CHの円との2つの交点X、Yが求める
点です。
∵ △CDEはCD=CEの二等辺三角形なので、線分DEの中点をMとします:
DM=EM=a (DE=2a), CM=h, CD=CE=r, r^2=a^2+h^2. このとき、直線CBと直線DEは
垂直です。また、CF=2aとDF=rより、四角形DFCEは平行四辺形です。
同様に四角形DCGEも平行四辺形です。よって、3点F、C、Gは一直線上に
あって、直線CFと直線BCも垂直です。
ところで、三平方の定理より、FE^2=(3a)^2+h^2=GD^2です。よって、△HFGは
二等辺三角形です。また、CF=CG=2aより、直線CHと直線FGも垂直になります。
FH^2=FE^2=9a^2+(r^2-a^2)=8a^2+r^2なので、
FX^2=CH^2=FH^2-CF^2=8a^2+r^2-4a^2=4a^2+r^2=CF^2+CX^2となって、
直線XCと直線CFも垂直です。よって、点Xは直線AB上にあります。点Yに
ついても同様なので、点XとYが求める点となります。■

(3)について:4点A、B、C、Dが平面上にあり、直線ABと、直線CDとの交点を
求めてみましょう。

点Aを中心とした半径ACの円と、点Bを中心とした半径BCの円との
(点Cでない方の)交点をEとします。また、点Aを中心とした半径ADの円と、
点Bを中心とした半径BDの円との(点Dでない方の)交点をFとします。
次に点Fを中心とする半径CDの円と、点Cを中心とする半径DFの円との
交点をG、点Eを中心とする半径EGの円と、点Gを中心とする半径GFの円との
交点をHとします。更に点Gを中心とした半径CHの円と、点Eを中心とした
半径CEの円との交点をKとします。すると、点Cを中心とした半径CKの円と、
点Eを中心とした半径CKの円との交点Xが求める点となります。
∵ 直線CEと直線FDは、それぞれ、直線ABに垂直です。よって、直線CEと
直線FDは平行です。また、CD=GF、FD=GCから、四角形CDFGは平行四辺形です。
これらのことより、3点C、E、Gは一直線上にあります。
次に△EGHはEG=EHの二等辺三角形です。そして、作図より、CH=KG、
EC=EKですから、△ECH≡△EKGです。これら2つの三角形は角Eを共有して
いるので、3点E、H、Kも一直線上にあります。また、直線CKと直線GHが
平行なことも簡単にわかります。(よって、△ECKと△EGHは相似です。)
△XECはXE=XCの二等辺三角形で、CX/GF=CK/GH(∵ 作図より)、
EC/EG=CK/GH(∵ △ECKと△EGHが相似)なので、△FEGと△XECは相似です。
これら2つの三角形は角Eを共有しているので、3点E、F、Xも一直線上に
あります。
点Xは、直線FE上にあり、二等辺三角形XECの頂点でもありますから、
この点Xが求める点です。

さて、これで準備ができました。問題の作図をしてみましょう。
まず、点Cを中心とした円と直線ABの交点X、Yを(2-a)によって求めます。
(円の半径は、直線ABと交わりさえすればいくらでも良い。)
普通の作図ならば、点Cを通る線分XYの垂直二等分線を引くために
点Cの直線ABに対して対称な点Dをとるところですが(点X、Yをそれぞれ
中心とした半径XCの円の交点がEになる。)、実は、これら4点
C、E、X、Yを使って、(3)に従って作図すると、円の交点が接点になる
部分がでてきてしまい、(理論上は問題ないのですが、)実際の
作図では、非常に不正確な作業を強いられることになります。
そこで、点Xを中心とした半径rの円と、点Yを中心とした半径Rの円の
交点の1つをC'とします。(但し、r<R. r+R=XY.)同じように
点Yを中心とした半径rの円と、点Xを中心とした半径Rの円の
交点で、直線XYに関して点C'と反対側の点をE'とします。
直線CEと直線XYの交点が、直線C'E'と直線XYの交点と同じなのは、
明らかでしょう。よって、これら4点C'、E'、X、Yを使って、(3)を
適用すると、きれいに交点Fが求まって作図は完了です。

この解答のポイントは、
 ◎ 基本の作図(1)(2)(3)ができることを示す.
 ◎ 問題の作図では、それをそのまま使わずに、
   一旦、C'とE'を作っておいて作図する.
ということでしょう。(後者がなくても理論上は正解ですけどね。)

それから、
http://web2.incl.ne.jp/yaoki/takaku.htm
にも類題があります。これは基本の作図(3)(+2つ目のポイント)を
使う作図ですね。